研究・報告

外交を切り拓く -設立10周年に寄せて-(猿田佐世)

2023年、新外交イニシアティブ(ND)は設立から10年を迎えました。「外交に直接声を届ける」というこの新しい取り組みへの皆様のご支援に心から感謝申し上げます。

15年程前、留学先の米首都ワシントンで、「外交」があまりにも民主主義的でなく、日本に存在する多様な声を反映していない事実を痛感しました。沖縄の米軍基地の負担を少しでも減らしたいと始めた米連邦議会への働きかけを続ける中で、一人ではできることが限られる、と、仲間を探し、声を掛け合って、2013年に新外交イニシアティブ(ND)を設立しました。

それからの10年、取り組まねばならない外交課題は実に数多く、米軍基地問題に加え、核兵器、原発や使用済み核燃料再処理の問題、歴史問題や東アジアの地域協力など、年を追うごとに取り組みを広げてきました。

沖縄の米軍基地問題については、継続的にワシントンへの働き掛けを続け、米議会小委から辺野古基地建設計画への懸念も示されました。沖縄県からは県知事の声を全国に広めるためのトークキャラバン等の運営を担っています。また、この10年目にはアメリカと韓国の力強いパートナー団体に恵まれながら日米中韓の外交・安全保障問題についての専門家国際会議を開催することもできました。

日米のプログレッシブ議員連盟での共同書簡の作成などの活動も開始しています。

米国を通じての働きかけで、日本政府に使用済み核燃料再処理によるプルトニウム保有量の上限を設定させることもできました。

また、昨年の安保三文書改定に先立って発表した政策提言「戦争を回避せよ」は、日本全国の平和を願う方々から大変高い評価をいただき、連日の講演依頼もいただいています。

若い世代のインターンやボランティアスタッフも途絶えることがなく、安保・平和の分野における新しい市民活動の形を日本社会に提示できているのではないかとも思っています。

日本では、私たちのように政治・外交分野で既存の枠組みに挑戦する団体は、資金集めも容易ではないのですが、その状況下においても、多くの方の力をお借りしながら最大限の取り組みを続けることができた10年だったのではないかと自負しています。

もっとも、この10年で国際情勢は大きく変わり、取り組まねばならないことはさらに増えています。米中対立が進み、日米韓の軍事協力が深まる一方、ロシア、北朝鮮と中国の連携も進み、東アジア地域はブロック対立の様相も呈し始めています。ウクライナ戦争は長期化し、イスラエルとパレスチナでも多くの人命が失われています。今行われている戦争は一刻も早く終わらせ、また、「台湾有事」など東アジアでの戦争は何としても回避しなければなりません。

第二次世界大戦後、日本人の多くが戦争への加担を拒み、外交中心の安全保障政策を強く願ってきました。しかし、年を経るごとに日本政府は軍事偏重に傾斜し、その傾向は近年極端なまでに加速しています。すべての政策に通じることですが、特にこの安全保障の分野において、権力者たちがその「権力」や「影響力」を無尽蔵に使いながら、社会を染め上げ、国の方向を決めていく様には心から辟易するばかりです。しかし、だからと言ってあきらめるわけにはいきません。

一人一人の命が脅かされかねない現在であるからこそ、外交・安全保障の分野においても、一人一人が大切にされる社会を目指し、人々の声なき声を政治や外交に反映していかなければなりません。この原点に常に立ち返りながら、私たち新外交イニシアティブ(ND)は次の10年も前を向いて進んでいきたいと思います。

新外交イニシアティブ(ND)代表 猿田佐世