研究・報告

日本の再処理・プルトニウム政策は、本当に “米国に縛られ、日本の自由にならない”のかー日本に届かない米国の懸念ー(ND Policy Brief Vol.1)

久保木太一(NDエネルギープロジェクトチーム研究員・弁護士 )

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1 核弾頭6000発分のプルトニウム蓄積

日本には約47トン(核弾頭約6000発分)のプルトニウムが蓄積されている。

これは、原発の使用済み核燃料の再処理により取り出された物であるが、日本がこのように再処理を行うことを可能にしているのが日米原子力協定である。

この協定は2018年7月に満期を迎えるため、現在はこの政策を見直す好機と言えるが、日米原子力協定を継続するべきかどうかにつき日本国内では以下のような言説が広まっている。「日本の原子力政策は米国の意向に基づく。それらの政策を日本自身で変えることはできない。日本は、日米原子力協定を継続し、再処理を継続するしかない」

本ペーパーは、新外交イニシアティブ(ND)エネルギー・プロジェクトにおける調査に基づき、上記の言説の真偽を明らかにするものである。

 

2 繰り返し米国から示されてきた懸念

日本の再処理やプルトニウム大量保有については、これまで多くの機会に、米国の多くの専門家が繰り返し懸念を示してきた。日本にプルトニウム保有を認めた場合、他国にも再処理やプルトニウム保有のインセンティブを与え核不拡散の方針に反するし、中国・韓国といった日本の潜在的核抑止力を脅威と捉えかねない国々との緊張関係も生じうる。テロの手にプルトニウムが渡る危険も含めた核セキュリティ上の懸念をもつ専門家も多い。米国では原発と再処理は別問題として認識され、原発を支持する人であっても、その大半は再処理に反対している。

日本への懸念を示した代表的な例を挙げれば、ジョン・ホルドレン米大統領補佐官(科学技術担当・当時)は、朝日新聞に対し、六ヶ所再処理工場の運転開始計画に関し「日本には既に相当量のプルトニウムの備蓄があり、これ以上増えないことが望ましい」「分離済みプルトニウムは核兵器に使うことができ、我々の基本的考え方は世界における再処理は多いよりは少ない方が良いというものだ」と述べている(朝日新聞2015年10月6日付)。

また、2016年3月17日、米連邦議会の上院外交委員会の公聴会でトーマス・カントリーマン米国務次官補(当時)は「我々は、(再処理には)本質的な経済性という問題があると考えており、米国とアジアのパートナー諸国が、経済面及び核不拡散面の重要な問題について共通の理解を持つことが重要だ――例えば日本との原子力協定の更新について決定をする前に」と述べ、「すべての国がプルトニウム再処理の事業から撤退してくれれば非常にうれしい」と述べている。

 

3 米国議員・補佐官からも示される懸念

新外交イニシアティブでは、原子力資料情報室(CNIC)などと協力しながら、協定満期の2018年7月を目前に、日米原子力協定について、ワシントンを複数回訪問(2017年7月・9月、2018年2月)し、様々な関係者への意見聴取を行った。

米国連邦議会議員・担当補佐官に面談を繰り返し行った際、聞かれた意見の一部を以下に抜粋する。

「米国議会で議論してよいテーマだと思う」

「核不拡散の問題なので米共和党、米民主党のどちらにでも通用する問題意識だ」

「韓国は“日本が持ちたいなら我が国も”と言っており、問題である」

意見聴取の結果、米共和党所属、米民主党所属を問わず、日本がプルトニウムを蓄積している状態を「核不拡散上の重大な懸念」として捉えていることが判明した。日本のプルトニウム蓄積と再処理の問題について米国議会でも取り上げるべきであるという意見は複数聞かれた。

米議会におけるこの注目の高さは、2017年9月の我々のワシントン訪問の際に、このテーマに共感した米国議員が、訪米団の講演会場として米連邦議会下院外交委員会の議場の使用を許可してくれたことからも窺うことができるだろう。

2018年2月15日、米上院外交委員会にてエド・マーキー上院議員(マサチューセッツ州選出・民主党)は、トランプ政権で国務省に登用されようとする高官候補者に対し、次のような質問をぶつけている。「アメリカは日米原子力協定の再交渉を検討すべきではないか?」「これ(日本の状態)により、核不拡散の実際の危険がこの地域全体で生じるのではないか?」

他方で、米専門家の中には、問題意識は共有しつつも、日本は米国の重要なパートナーであるため、日本側の意向によって再処理を認めた日米原子力協定は、触れてはならない「パンドラの匣」であるという意見もあった。

 

4 「呪縛を解く」米国専門家の声

9月訪米時に行った米シンクタンクCSIS(戦略国際問題研究所)主催の公開シンポジウムにて、オバマ政権下で国務次官代理を務めたトーマス・カントリーマン氏(前出)は、「(プルトニウム蓄積は、)核不拡散のリーダーである日本の立場に対して疑問を投げかけるものだ」とし、日本に対し余剰プルトニウム削減方法の詳細を明確にすることや、六ヶ所再処理工場稼動の前提としてプルトニウム・バランスを健全化することについてのコミットメントを求めた。

また、同シンポジウムにおいて、同じくオバマ政権下で国家安全保障会議(NSC)上級部長を務めたジョン・ウルフソル氏は、「日本が本当に再処理をやめようとした場合、米国政府関係者が、“これまでやってきたのだから、このまま進んだ方がいいかもしれない”と発言することはありえない」と述べ、日本の再処理政策はアメリカの言いなりであるという一種の「呪縛」を解いてみせた。

現地調査においては、多くの専門家に意見を聞いたが、日本が現状のまま再処理を行い続けることについて支持をする米国の専門家・関係者は極めてわずかであるという事情が明らかになった。

 

5 再処理政策について日本が自主的に再検討すべき

これらの調査の結果、確認されたことは、上記1の言説が幻であるということである。日本の再処理政策は米国が決定しているのではなく、むしろ米国に存在している声を黙殺しつつ、日本自身が決定しているものである。日米原子力協定についても、プルトニウムの大量蓄積、そしてそれを生み出した再処理に関する「包括事前同意(注:日米原子力協定で認められている)」については米国としては方針変更を強く望むものであり、これに反する現行の政策維持は、日本主導で行っているものなのである。

日本の蓄積プルトニウムは、東アジアの安全保障環境に暗い影を落とすものである。米国内に存在する声も含めた多様な意見を参考にしつつ、日本の再処理政策について、日本国内でのオープンな議論が求められる。

(久保木太一・くぼきたいち)