研究・報告

プルトニウム削減に向けた実現可能性のある選択肢を-日本のプルトニウム政策の変遷 (ND Policy Brief Vol.3)

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プルトニウム削減に向けた実現可能性のある選択肢を-日本のプルトニウム政策の変遷

【概要】

日本は、原子力利用の当初より、核燃料サイクル政策を採用してきた。この政策は、そもそも高速増殖炉サイクルを念頭においたものであったが、高速増殖炉開発は失敗に終わり、プルサーマルサイクルに重きが置かれるようになった。しかし、プルサーマルサイクルも経済的に合理性のない政策であり、さらには、福島第一原子力発電所事故以降、原子炉の再稼働が見込めないため、結果、プルトニウムは使用されずに、2017年末現在において、余剰プルトニウムは46.9トンに及んでいる。

日本政府は、余剰プルトニウム削減に向けて、今こそ、実現可能性のある選択肢を検討すべきである。

1 原子力導入時の政策

日本は、原子力利用の当初より、核燃料サイクル政策を採用してきた。そして、原子力発電の使用済み核燃料についてはすべて再処理工場で処理してプルトニウムを取り出すという全量再処理方針を一貫して継続している。当初、「核燃料サイクル」政策として念頭におかれたのは、高速増殖炉を用いたサイクルであった。高速増殖炉を利用した「核燃料サイクル」(高速増殖炉サイクル)では、プルトニウムを利用して発電をしながら、消費した量以上のプルトニウムを取り出すことができる。その取り出したプルトニウムを使って発電を繰り返すことにより、何度もエネルギーを作り出すことができるというまるで打ち出の小槌のような計画である。世界の原子力開発自体が、高速増殖炉サイクルの開発を目指して始まったものであり、とくに資源の乏しい日本にとって、この計画は「夢の計画」として大きな期待を集めた。

2 高速増殖炉サイクルについて

⑴ 高速増殖炉サイクルの破綻

しかし、1980年代から90年代にかけて、原子力発電の燃料となるウランの埋蔵量が予想以上にあることが判明し、プルトニウムを増殖させる緊急性がなくなった。さらに、技術的・経済的な課題も多く、1990年代にはアメリカ、フランス、ドイツなど、世界の主要国が高速増殖炉の実用化計画から撤退した。
日本における高速増殖炉サイクルの実用化への道も遠い。本体工事着工(1985年)から約9年後である1994年にようやく初臨界を迎えた高速増殖炉もんじゅは、翌年である1995年にナトリウム漏れ火災事故を起こして運転を停止し、その後ほとんど稼働することがないまま、2016年12月に廃炉が決定した。もんじゅが稼働していたのは22年間のうちのわずか250日であったが、2018年5月11日、会計検査院は、もんじゅには過去に少なくとも1兆1313億円が投じられたことを発表した。また、廃炉費用は国の試算の3750億円を超える可能性があるとした。

⑵ 高速増殖炉から高速炉へ

もっとも、日本政府は、「もんじゅ」廃炉の方針と同時に「核燃料サイクルを推進するとともに、高速炉の研究開発に取り組むとの方針を堅持する」ことを閣議決定した。研究開発の対象が「高速増殖炉」ではなく、「高速炉」となっていることに留意したい。高速炉とは、もんじゅと同様にプルトニウムを原料として高速の中性子を使う原子炉だが、プルトニウムの増殖はしない。高速炉を使えば、核分裂によって使用済み燃料の中の放射性物質の寿命が300〜400年に短縮され、廃棄物の毒性が低減されるといわれている。もっとも、高速炉もやはり技術的に困難であり、いまだ実用化の見通しは立っていない。

⑶ フランスとのASTRID共同研究

もんじゅの廃炉が決定して間もない2017年3月20日、日本政府は、高速炉の実証炉ASTRIDに関する日仏間のパートナーシップ強化の検討をする意図表明を行った。
しかし、ASTRIDの運転開始予定時期は、2006年に2020年とされていたものが、2016年には2033年以降に後ろ倒しになっていることが発表された。
また、2018年6月1日に経済産業省で開かれた「高速炉開発会議戦略WG」において、来日したフランス原子力庁原子力部門プログラムマネージャーのニコラ・ドビクトール氏が「現在のウラン市場の状況をみると、高速炉実用化の必要性はそれほど緊急ではない」「出力は(当初予定の60万キロワットから)10万〜20万キロワットに縮小を検討」などと説明した。日仏共同の高速炉開発には早くも黄信号が灯っている。

3 プルサーマルサイクルについて

⑴ 重みを増したもう一つの「核燃料サイクル」

高速増殖炉サイクルとは区別されるもう一つの「核燃料サイクル」が、「プルサーマルサイクル」である。プルサーマル発電は、プルトニウムを混ぜた混合酸化物(MOX)を軽水炉の燃料として発電を行うものである。プルサーマルは、高速増殖炉構想に遅れて、1972年に原子力委員会が公表した「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」において初めて実施が明記された。高速増殖炉の実用化に疑念が持たれる中でプルサーマルサイクルは政策上の重みを増していく。1994年の長期計画では、高速増殖炉サイクルが「将来の核燃料リサイクル体系」とされる一方でプルサーマルサイクルの具体的な実施計画が定められ、1997年には「現時点で最も確実なプルトニウム利用方法であるプルサーマルについては、これを早急に開始することが必要である」とする「当面の核燃料サイクルの推進について」が閣議了解された。

⑵ プルサーマルサイクルの経済的不合理性

もっとも、プルサーマルサイクルは高速増殖炉サイクルの役割を完全に代替できるものではない。プルサーマルから回収される劣化したプルトニウムではリサイクルが難しく、おそらくせいぜい1〜2回しかリサイクルができない。また、プルサーマル発電に使用されたMOX燃料の再度の再処理技術は実用化しておらず、そのまま地層処分するしかない。また、日本がフランスからMOX燃料を輸入した際、フランスが税関に申告した価格は、ウラン燃料の約10倍だった。プルサーマルサイクルは限定的なサイクルに過ぎず、経済的な合理性がないのである。

⑶ 再稼働が困難な日本の現状

2010年9月に電気事業連合会が示した「プルトニウム利用計画」においては、2015年度までに16〜18基の軽水炉で、MOX燃料として、年間5.5トン〜6.5トンの核分裂性プルトニウムを利用することとされている。
しかし、2011年3月の福島第1原子力発電所での事故を契機に、日本のすべての軽水炉が停止した。現在稼動している軽水炉のうち、プルサーマル発電が行われているのは、高浜原発3号機、4号機、伊方原発3号機、玄海3号機のわずか4基であり、全炉心にMOX燃料を装荷できる(いわゆるフルMOXの)大間原発の稼働も未定である。
電気事業連合会が示したとおりに早期にプルトニウムを消費するためには、早期の再稼働が必要不可欠である。しかし、国民の過半数が脱原発を望んでおり、原子炉の再稼働すらままならない中、プルサーマルが可能な原子炉基数は依然不透明なままだ。

4 日本のプルトニウム政策

⑴ 蓄積するプルトニウム

高速増殖炉サイクルが実用化されない中で、全量再処理政策によって六ヶ所再処理工場やフランス、イギリスの再処理工場等で使用済み核燃料からのプルトニウムの分離を続けてきた結果、日本は46.9トンものプルトニウムを保有している(2017年末現在)。プルトニウムは軍事目的に転用可能であり、46.9トンものプルトニウムは核弾頭約6000発分にも相当する。
プルトニウムの蓄積は核不拡散の観点から問題である。日本の大量のプルトニウム保有は、国際社会から安全保障上の懸念を持たれる。また、テロリスト等への手に渡る可能性を高めるものとしても問題である。

⑵ 一貫した余剰プルトニウム不保持の「建前」

日本は、一貫して余剰プルトニウムを持たないという宣言を行っている。1991年の「我が国における核燃料リサイクルについて」(原子力委員会)では「必要な量以上のプルトニウムを持たないことを原則とする」と述べ、1997年には「余剰プルトニウムは持たないとの原則を堅持している」との記載を含んだ「我が国のプルトニウム利用計画について」をIAEAに提出し、国際社会に対して示した。また、2014年のエネルギー基本計画においても、「利用目的のないプルトニウムは持たないとの原則を引き続き堅持」するとされている。

もっとも、前述のとおり、日本には2017年末時点で46.7トンものプルトニウムが蓄積しており、この原則だけでは不十分との認識が高まっている。

⑶ 「プルトニウム保有量の削減」について

2018年7月31日、原子力委員会は、日本が保有するプルトニウムについて、現在の約47トンの保有量を上限とし、今後は増やさずに削減するとした新たな方針を決定した。これに先立ち、「エネルギー基本計画」にも同様の趣旨が明文化された。保有量の削減を明記したことは初めてであり、これは政府の方針としては一歩前進であろう。もっとも、全量再処理政策は依然堅持されており、削減のための有効な手段が具体的に示されないままでは、削減が実現できるかどうかは定かではない。

5 提言

福島原発事故を踏まえ、原子力の将来が不透明になった段階で、原子力委員会は「柔軟な核燃料サイクルへの転換」を提言した。ここでは原子炉が減少した場合には、全量再処理よりも直接処分や貯蔵を行う政策の方が経済的に優位であることが示されている。もっとも、現時点では、特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律において、(再処理する前の)使用済み核燃料の処分は認められていないため、直接処分は法律によって禁止されたままであり、これを変えないことには他の処分方法はとりえない。
既存のプルトニウムについては、すでに引き取りを提唱しているイギリスに有償で直接引き取って処分してもらうという選択肢も考えうる。
日本政府は、これを機会に、プルトニウム削減に向けて、具体的な実現可能性のある選択肢を真摯に検討すべきである。

(久保木太一・くぼきたいち)