研究・報告

原子力大国フランスの変遷と核燃料サイクルへの警鐘(ND Policy Brief Vol.5)

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フランス政府が2018年6月に発表した高速炉ASTRIDの計画凍結は、日本の原子力政策に大きな打撃を与えた。世界有数の原子力大国であるフランスは、核燃料サイクルの実現を目指し、高速炉の研究開発において日本と密接な連携体制を築いてきた。もんじゅの廃炉が決定した後、日本政府はその後継機としてASTRIDに期待を寄せ、使用済み核燃料問題の解決策を模索してきたのである。しかし、フランスの原子力産業が財政難に陥りASTRID計画が凍結され、同国政府が原発依存度の減少を目指す今、日本の核燃料サイクルはこれまでにも増して行き詰まりを見せている。核拡散の観点から余剰プルトニウムに対する批判も高まる中、フランスと日本にとどまらず、国際社会における核燃料サイクル政策は岐路を迎えている。

原子力大国フランス
フランスは世界で最も原子力への依存度が高い国である。国内では現在も58基の原発が稼働しており、原子力は同国における発電電力量の約7割を占める。石油や天然ガスなどのエネルギー資源に乏しいフランスは、限られたエネルギー源を確保し、欧州における地位を維持するためにも、1970年代の石油危機を契機に大規模な原子力開発に踏み切った。その結果、フランスの原子力研究開発は原子力・代替エネルギー庁(Commissariat à l’énergie atomique et aux énergies alternatives、以下 CEA)を中心に著しい発展を遂げ、医療技術や宇宙物理など、原子力以外でも幅広い分野に応用されている。

フランス政府は原子力に対する強い支持を得るため、国民と密接なコミュニケーション体制を構築してきた。1986年のチェルノブイリ原発事故発生後、原発の安全性が懸念され、原子力は世界的な批判にさらされた。フランス国内においても、原子力に対する懐疑的な声は後を絶たない。その最中、フランスの政府は国民へ向けて、原子力のリスクやエネルギーのセキュリティに対する情報を積極的に発信してきた。メディアを通じた世論操作も功を奏し、2011年の福島原発事故が発生する前は、国民の2/3が原発賛成派であったという。

フランスの原子力企業も国際原子力市場における同国の競争力を支えてきた。国内大手原子力企業AREVA(2018年1月、ORANOに改称)は、2011年に発生した福島第一原発事故の影響やフィンランドの新型原子炉建設の遅延により経営難に陥り、2014年度の決算では48億ユーロもの純損失を計上した。その後、フランス政府は原子力産業の再編に邁進し、AREVAは世界最大規模の原子力産業複合企業ORANOとして再スタートを切った。また、再編の一環として、AREVAの原子炉・サービス部門は国有電力会社Électricité de France(以下EDF)へ移管された。オランド・社会党政権下で制定された2015年の「エネルギー移行法」では、原子力発電設備容量が6,320万kWと定められており、原子炉の閉鎖により容量に空きが出れば、原発の新規建設も可能になる。そのため、EDFは新型の欧州加圧水型炉(European Pressure Reactor、以下EPR)の設計にも着手し、寿命を迎えた原子炉の建て替えも表明した。原子炉の設計や建設にも携わるEDFは、中国やインドへの売り込みも実施するなど、海外展開も図っている。

原子力夢物語へ向けた日仏協力
原子力大国のアメリカ、フランスはもちろんのこと、ドイツ、スイス、ベルギーなど、かつては多くの原子力利用国が核燃料サイクルを構想していた。しかし、サイクルの要となる高速増殖炉は経済性がないうえに、技術的な課題も山積みであった。核不拡散の観点からも、高純度のプルトニウムを生み出す高速増殖炉は問題視され、多くの国は増殖炉に見切りをつけていった。

そのような逆風の中、フランスはプルサーマル(プルトニウムを既存の軽水炉でリサイクルする)方針と高速増殖炉の計画を積極的に継続してきたのである。現在フランスは国内で毎年発生する約1200トンの使用済み核燃料につき、約1000トンはAREVAが運営するラ・アーグ再処理工場にて再処理し、MOX燃料に加工している。ひいては、年間約120トンのMOX燃料が生産され、国内電力の10%を発電している。すぐに再処理されない使用済み核燃料は、各地の発電所やラ・アーグ再処理施設のプールにおいて湿式貯蔵される。フランスが保有する約65トンのプルトニウムもいずれはMOX燃料に加工される予定で、使用済み核燃料の蓄積を防ぐためにも、同国は核燃料サイクルの確立を目指してきた。

高速増殖炉においては、フランスは1967年にラプソディー(実験炉、熱出力4万kW)、1973年にフェニックス(原型炉、電気出力25万kW)、1985年にスーパーフェニックス(実証炉、電気出力124万kW)を建設し、運転した経験がある。しかし、いずれもナトリウム漏れや発電機の故障などに見舞われたうえに、採算性も取れず、廃炉となった。

その後フランスは、高速増殖炉の代わりに、プルトニウムの増殖ではなく、廃棄物の燃焼を目的とする高速炉の開発に舵を切った。そして同国政府が新たな実証炉の開発をCEAに要請した結果、ASTRID計画が誕生した。この国家プロジェクトが立ち上がった2010年当初、新型高速炉ASTRIDの電気出力は60万kWを予定しており、建設費は60億ユーロ(約7800億円)と発表されていた。一方で、当時のフランス原子力産業は資金難に陥っており、高速炉の開発は行き詰っていた。そこで、フランスは自らの計画を進めるために、当時停止していた日本のもんじゅの運転再開と共同研究を要望し、2014年には高速炉開発に関する日仏の政府機関間(CEA/経産省/文科省)および実施機関間(CEA/AREVA/日本原子力研究開発機構(JAEA)/三菱重工株式会社/三菱FBRシステムズ株式会社(MFBR))の取り決めが締結された。

しかし、2016年末にもんじゅが廃止された後は、逆に日本側がもんじゅの後継としてASTRIDに期待を寄せ、エネルギー基本計画でもASTRID共同開発費への負担が記載されていた。新高速炉の開発向けにフランス政府が2019年までに投じた金額は10億ユーロ(約1200億円)にも上る。共同研究では日本のほか、ロシアや中国、米国も候補国として挙がっていたが、資金面において、フランスは特に日本の支援を求めていた。ASTRIDを頼みの綱としていた日本としても、援助をいとわず、同プロジェクトにおいて約200億円もの費用を負担していた。このように、フランスと日本は「夢の原子炉」と呼ばれる高速増殖炉と、その代替品である高速炉の実現へ向けて、臨機応変な協力体制を築いてきたのである。

ASTRID計画の凍結
日本の期待とは裏腹に、経産省が2018年6月に主催した高速炉開発会議において、フランスの原子力・代替エネルギー庁担当者がASTRID計画の凍結を発表した。建設可否の判断は2024年に先送りされ、仮に建設されたとしても、高速炉の予定電気出力は10万~20万kWと大幅に縮小し、実用化は2080年頃を目指すことになる。

計画縮小の背景には、高速炉開発をめぐるひっ迫した財政事情があった。仏原子力・代替エネルギー庁のニコラ・ドゥビクトール幹部は、「仏の原発業界は財政的に厳しく、ASTRIDを従来のスピードで開発することに乗り気ではなくなった」と述べている。また、仏モンペリエ大学でエネルギー政策を専門とするジャック・ペルスボワ名誉教授も、福島第一原発事故後の安全規制強化により、原発の建設費が3倍にも跳ね上がり、高速炉開発の資金が不足してしまったと説明する。ASTRID計画を主導するORANOは経営不振が続き、実用化へ向けた大型高速炉を建設予定であったEDF も、既存原発の建て替えや新型EPRの開発など、他に優先事項がある。そもそもフランスはASTRIDにあたっては、開発協力国の資金をあてにするほど財政難に陥っていた。世界各国で核拡散の懸念が高まる中で、フランス政府は限られた費用をこのまま高速炉の開発に費やすべきなのか。数十年に渡り原子力業界を牽引してきたフランスの核燃料サイクル政策が、窮地に追い込まれている。

終焉を迎えつつある核燃料サイクル
福島第一原発事故以降、原子力の安全神話が崩壊し、フランス政府は再生可能エネルギーへの転換を図ることとなった。原発関連コストの上昇も、脱原発政策を加速させた一因といえる。前述の「エネルギー移行法」では、再生可能エネルギーの開発だけでなく、原子力発電比率の低減を目的としたフランス国内における原発の閉鎖も推進されていた。現在も一定の原子力発電設備容量は設定されているものの、2017年に就任したマクロン大統領も脱原発政策を掲げ、国内発電電力量に占める原子力の割合を2035年までに50%へ引き下げる政策を打ち出している。

ASTRID計画の後退は、日本の核燃料サイクルをめぐる開発にも影を落としている。もんじゅは2016年に廃炉となったが、国際的な批判を浴びている余剰プルトニウムを効率的に処理するためにも、日本は高速炉の研究開発を継続した。経済産業省はASTRID主体で高速炉計画を進める予定だったが、フランスにおけるASTRIDプロジェクトの凍結により、当初の目論見が外れてしまった。経産省が2018年12月に発表した高速炉の研究開発に関する方針「戦略ロードマップ」でも、今後の多様な技術開発の可能性には触れているものの、ASTRIDへの言及はない。もんじゅより小規模となる高速炉で、そもそも成果が得られるのだろうか――関係者の間でも疑問の声が絶えない。安全審査中の青森県六ヶ所の再処理工場は、稼働が不透明なままだ。また、玄海、浜岡などの原子力発電所内で乾式貯蔵施設を建設する動きもある。唯一の希望の星であったASTRID計画が凍結された今、日本における核燃料サイクルの意義が問われている。

原発を導入した多くの国が、かつては原子力発電の燃料・ウランの枯渇を危惧し、その解決策として核燃料サイクルの実現を目指していた。しかし21世紀になってもウラン資源はひっ迫せず、原子力産業が衰退した現在では、高速増殖炉は経済性のない技術として認識されている。高速増殖炉開発の計画自体は一部の国(ロシア、中国、インド)で進められているが、実用化の見通しは不透明である。逆風の中で核燃料サイクルの研究開発を進めてきた日本とフランスも、ASTRID計画の凍結により、路線変更をせざるを得ない状況である。

2019年6月26日に経済産業省とフランス連帯・エコロジー転換省が署名した「エネルギー転換のためのイノベーションに関する協力各書」では、2020年以降の高速炉開発へ向けた日仏協力体制構築の道筋が謳われているが、「シミュレーションや実験を中心とした研究開発に焦点を当て」とされるのみで、具体的な開発の目処は立っていない。余剰プルトニウム対策としてのもんじゅとASTRIDは、日本のプルトニウム大量保有と核武装の可能性を批判する一部の声に対する反論材料でもあった。国際社会における核拡散の懸念が深刻化する中で、これが既に有効な反論となり得ない現在では、新たな方向性の検討が求められている。

(平野あつき・ひらのあつき)