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【2016年5月20日 自衛隊派遣のリスクを考える ―南スーダン現地からの報告―】

2016年5月20日、新外交イニシアティブ(ND)は、南スーダンにも駐在されていた今井高樹氏(日本国際ボランティアセンター(JVC)スーダン駐在スタッフ現地代表)をお招きし、「自衛隊派遣のリスクを考える―南スーダン現地からの報告―」を開催いたしました。緊急の開催にもかかわらず、会場は満席となりました。ご参加いただきました皆様には、深く感謝申し上げます。下記、当日の今井氏の講演部分の要旨をご報告いたします。
こちらからもご覧いただけます。

1956年にイギリスの植民地から独立したスーダンでは、北部「アラブ」系の支配層と南部の非アラブ系民族の間で、第一次(1955~1972年)・第二次(1983~2005年)あわせて半世紀に及ぶ内戦が続いた。2005年に南北包括和平協定が結ばれ、2011年の住民投票によって南スーダンが分離独立したが、2013年7月、サルバ・キール大統領がリエック・マチャール副大統領を含む全閣僚を解任。同年12月15日、ジュバの政府軍内部での衝突を契機に、各地で激しい戦闘が繰り広げられた。その後、ディンカ族を中心とする政府軍SPLA(大統領派)と、ヌエル族を中心とする反政府軍SPLA-IO(前副大統領派)による対立が続いた。

現在は大規模な衝突が起きているわけではないものの、昼夜ともに銃を用いた襲撃、強盗や強姦が行われ、日本人は長期滞在できない状態になっており、滞在も首都ジュバに限られている。私は2007年から3年間、JVCの駐在員として独立前の南スーダン(当時はスーダンの一部)で暮らしていたが、2013年12月以降治安や経済状況は著しく悪化。通貨価値は1/6に低下し、外貨がないため輸入もできず、ガソリンや食料品は闇マーケットでの高価な取引に限られている。今年の国連の報告によると国内(170万人)・国外(70万人)あわせておよそ240万人が避難民となっており、農業を営めないことによる食糧不足も深刻化し、同報告では約280万人が飢餓状態に陥っているという。

2015年8月、両勢力の間で和平合意が結ばれるが、現政府(大統領側)が2015年10月に独自に決定したディンカ族に有利な線引きによる州数(10州から28州へ)の変更(「28州問題」)等により協議は難航。今年4月29日、統一政府が樹立されマチャール氏が副大統領に再任し、閣僚(総数30)の配分もSPLM(大統領派)53%(16)、SPLM-IO(反政府派)33%(10)、SPLM-FD(中立派) 7%(2)、その他諸政党2%(2)と合意に沿ったものとなった一方、政府軍・反政府軍の統合の問題や「28州問題」が今後新たな紛争の火種になりかねないとみている。

国連PKOに関しては、南北スーダンの和平プロセスを支援するUNMIS(United Nations Mission in Sudan)が2011年の南スーダン独立に伴い任務を終了し、国家建設の支援にあたるUNMISS (United Nations Mission in South Sudan) が設立された。このUNMISSは2013年12月以降、市民保護に重点が置かれ、主に国内避難民約18万人を各地で保護する国連のキャンプ(PoC(Protection of Civilians))の警護や人道支援関係者の保護を行っていたが、2015年8月の和平合意後、「国連安保理決議2252(2015年12月15日)」により、「人権に関する監視・調査」、「人道支援のための条件整備・後方支援(治安情報提供・武装警護等)」、「和平合意の履行支援(統一政府樹立に向けた行政支援・停戦監視メカニズムの支援・治安部隊の統合への支援など)」などの任務が加えられた。

なお、PKO側に対しても、国連ヘリの撃墜、国連車両やPKO駐屯地、避難民収容施設への襲撃などが起きており、2013年12月以降41名の犠牲者が出ている。ただし襲撃者は政府軍・反政府軍の他に民兵や暴徒もいるため、「武装グループ」が誰なのか明らかでない場合も多く、不用意に反撃をすると住民を巻き込む危険性やPKO部隊への反感を呼び起こす恐れがある。PKOは部隊が「紛争」の当事者とならないよう戦闘に巻き込まれることを避けており、今年2月に国連難民キャンプが襲撃された際も、威嚇射撃、催涙弾での対応に留めたという。現在PKO部隊は、いわゆる「駆け付け警護」に相当するような救出作戦も展開しておらず、基本的には交渉による解決を図っている。そのため、現地情勢の把握や当事者との信頼醸成が重要な能力となる。

このような現地の状況があるため、この度のPKO法の改定で自衛隊の任務に加わった「駆け付け警護」や「安全確保業務」、「宿営地の(他国軍との)共同防衛」に対し、外国のNGOは「奇妙な発想」とみており、日本の大半のNGOも「迷惑」「困る」という認識である。もし自衛隊が襲撃に対して軍事的な介入を行っていけば、政治的・軍事的に中立な技術立国としての信頼が損なわれるばかりでなく、「武装グループ」や住民の反感が高まることで攻撃の対象になる危険性や、「日本」への敵対感情を生み出すことにもつながりかねない。

自衛隊は、武力介入を行わないという中立な立場によって築かれた信頼関係を活かし、武力衝突が繰り返されないよう、政府・警察官に対する人権についての研修、行政機構や法律の整備の指導、教育支援や復興支援等、非軍事面での重要な役割を果たせると考える。

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