【朝日新聞社 関西スクエア会報6月号】

第13回 中之島クロストーク
ゲスト 新外交イニシアティブ(ND)事務局長・ 猿田佐世さん
ホスト 政治学者・白井聡さん

草の根の声 外交に

幅広い声を外交に届ける「新外交イニシアティブ」事務局長の猿田佐世さんをゲストに迎えた第13回「中之島クロストーク」(朝日新聞社主催)が4月9日、朝日新聞大阪本社アサコムホール(大阪市北区)で開かれました。ホスト役の政治学者・白井聡さんとともに、日米外交について語りました。(以下はダイジェストです)。

白井 新外交イニシアティブ(ND)がどんな活動をしてきたのかといったところからお話を伺いたいと思います。

猿田 今の日米外交には、日本にたくさん存在しているさまざまな声が反映されていません。

トランプ大統領がシリアを空爆しましたね。寝耳に水というか、「そんな話、聞いていないよ」という感じであっという間に空爆したわけですけれども、その直後に安倍さんが「その決断を支持する」と言いました。もちろん、支持している人が日本国内にいるのは知っていますけれども、私は支持をしていないし、国民が意見を聞かれたことも、国会で審議されたこともない。

そこには熟慮も、国民の議論もない。それに反対している人たちが日本の中にはある一定の数、マジョリティーなのか、マジョリティーを切るのかはわかりませんけれども、必ずや一定の数はいるにもかかわらず、断定的な形で、その決定を支持するという表明を安倍さんはしてしまったわけです。

日本のいろいろなところで今の外交により影響を受けている方、特に沖縄の方々、福島の方々、そういう方々が自分が直接的に被害をこうむりながら、今の日米外交は嫌だな、この辺が変わらないかなと思っているにもかかわらず、そんな声の検討がないままに、今の日米外交の政策は決定されています。

草の根で日本に存在する声、それは世論調査をすると、沖縄の米軍基地の問題でも、原発の問題でも、実は多数の声かもしれないのに反映されていない声、そういうものを日米外交に反映できないかなということで取り組んでいる団体です。

白井 もともと留学のためにワシントンへ行かれたんですね。勉強しながらロビー活動を始めたということですか。

日本製の「アメリカの声」

猿田 大学院生として留学し、ニューヨークの大学へ行って、もう一つ大学へ行こうと思ってワシントンへ移ったら、目の前であまりにもおもしろいことが起き続けたので、これは教室の中で勉強しているよりも、ワシントンで世界政治をつかさどっている人たちの中で、生の外交を見たほうがよほど勉強になると思い、活動を始めました。

アーミテージさんとか、ジョセフ・ナイさんが出したアーミテージ・ナイ報告書をご存じの方は、どれくらいいらっしゃいますか。半分ぐらいの方ですかね。アーミテージ・ナイ報告書というのは、日本に対して、例えば集団的自衛権の行使を早く認めなさいとか、脱原発してはいけませんという提言をしてきた報告書で、5年、7年ごとに出され、出版されると日本はそれに従って進んでいく、日本の防衛安保政策の青写真とも言われるような報告書なんです。

ワシントンの人口は60万ちょっとしかいなくて、しかも、その中で大半の人は日本のことについて、まったく関心はない。

その中で、アーミテージさんとかジョセフ・ナイさんといった一部の人たちが、日本に対して強い関心を持っています。アメリカでの日本に対する見方の多くは、アメリカの世界戦略の一部として、中国に対するのに便利なところに存在しているというもの。日本に軍事力強化を求めるといった報告書を出して、日本政府とうまくタッグを組み、報告書の中身を実現しています。

「ワシントン拡声器」というのは、文字どおり、ワシントンを使って声を拡大させ、その声を日本で広げるということです。日本政府や大企業、保守的な一部の国会議員は、大使館を通じて、あるいはワシントンを訪問するなりして、今の日本の情勢をアメリカの国務省、国防総省の政府関係者、あるいは知日派と言われる日本専門家の人たちに伝える。また、日本政府や大企業は、毎年、知日派の所属するシンクタンクなどに多額の資金提供も行っています。そういった環境の中でアメリカから発せられる声が、日本に広がる。

ワシントンに日本政府や国会議員が働きかけ、日本メディアや日本政府が日本への「拡声器」となり、私たちはものすごく大きな「アメリカの声」を受けているのです。「アメリカがこう言っているから、こういう政策をとらなければいけない」と。

リベラルも保守も、そういうアメリカの声に押されて、反対運動もするし、推進運動もする。しかし、日本に伝わる「アメリカの声」が、たとえ一部であっても日本からの情報や資金を直接・間接に受けて作られていると知る人は、日本にはほとんどいません。非常にゆがんだ日本製のものを、私たちはアメリカ製だと思い込んでいる。このシステムに私は「ワシントン拡声器」という名前をつけて、いろんな方にお話ししています。

沖縄基地問題 米は柔軟

白井 沖縄の外交のアドバイザー的な役割を猿田さんは果たしてきたと思うんですけれども、これまで翁長県政になってから、手応えとしてはどうでしょうか。

猿田 手応えということですけれども、まず、日本政府よりもアメリカのほうが圧倒的に柔軟だと思います。今、一番問題になっている、辺野古に基地を造るかどうかということですが、是が非でも進めたいと思っているのは日本政府であって、アメリカ政府ではないと私は確信しています。
これは、ワシントンでいろんな人と会って話をしてみての実感です。本当にいろんな人たちが「べつに辺野古である必要はないよね。でも、日本政府が辺野古だと言っているし、ほかの案も出てこないから辺野古だよね」みたいな。アーミテージさんは何度も、日本から別の案が出てくれば、アメリカ政府は絶対に考えると言っているし、ジョセフ・ナイさんは「辺野古は答えではない」と、はっきり言っている。
私がすごくいやらしい取材を受けるときは、「猿田さん、そんなに頑張ってやっているけど、何も変わっていないじゃないですか」と言われるんです。

白井 むかつきますよね。

猿田 そんなことを言ったら、頑張っている翁長さんも何も変えられていないし、沖縄はみんなが頑張っているけれども変えられていない。もっとも、考えてみれば、そうこうしながら、沖縄は20年間、基地建設を止めてきている。これはすごいことですよ。アメリカのほうも、援護射撃になるような法案で関連予算が止まったり、あるいは、バークレーや、アメリカのケンブリッジで市議会が「辺野古に基地はつくらないほうがいい」という決議を上げたりする動きにもつながっていて。

白井 皆さまからの質問に答える形で進めさせていただきます。アメリカには、大統領が代わっても変わらない方向や意思というものがあるんでしょうか。大統領などのほかに、アメリカがやりたいことというのを誰かが言うのでしょうか。それから、外交というものは、普通の市民が直接かかわれるものではないという現実があるわけですけれども、どうしたらそういう状況を乗り越えることができるのかという質問が何件かありました。

「ツール」いかしてほしい

猿田 最初の質問ですが、「トランプさんは在日米軍撤退など今までにないことを言っていたから、ひょっとしたら日米外交も変わるかもと思っていたら、結局、変わらなかったじゃないか」というのが、その質問の裏にあると思うんですが、戦後70年、日米外交というのは、若干ずれることはあっても、一本の太い方向を貫いてきていて、大統領がトランプさんになっても大きくは変わらないというのが答えだと思います。

去年の今ごろ、私は新聞のインタビューで「トランプさんになったら日米外交はどうなるんですか」という質問を受けたんですけれども、そのときの答えも今と変わらなくて、「いや、トランプさんになっても変わらないと思います」というものでした。

これまで日米外交をつかさどってきた議会も知日派もそのままだし、日本政府もそのままなわけで、大統領が変えようとしても彼らが大反対する。変えたい政策が数ある中でトランプさんにとって日米外交は優先順位が低い。強い抵抗を乗り越えてまで変えるモチベーションはない。結果、残念ながら、大統領が代わっても大きな変化は望めない。

次のご質問ですけれども、私たち新外交イニシアティブは、みなさんが普段から持っている悩みなり、今の政策はちょっと違うと思うといった意見を、外交に運べればと思っています。沖縄の問題は、沖縄が頑張っておられるので、外交をやるにしても、堂々と「沖縄ではこうです」と言いやすい。けれども、例えばほかの問題で、前に民主党政権だった時代は、たくさんの民主党の国会議員が「これまでの外交とは違うものをアメリカに伝えたいから、猿田さん、手伝ってください」ということで、いろんな議員さんとアメリカへ行く機会があったんです。

でも、今は数えてみて、どのくらい元気な民進党の議員がいるかという話で、それは社民党、共産党、自由党も同じ。東京の議員会館へ行ってみたら、各フロアは一列、ほとんどが自民党議員の部屋みたいな状態だと、「既存の外交とは異なる声を外交に届けます」と言っても、届ける声がない。

結局、私がやっているのは物事を変えるためのツールにすぎなくて、日本の中でしっかりと外交に届くべき声が存在しない限り意味がないのです。

そういう意味では、沖縄の問題もそうですし、原発の問題もそうですし、それ以外の社会問題、福祉とか教育とか、すべてそうだと思いますけれども、それぞれの持ち場で一つ一つ、「日本にはこういう違う声があるんだぞ」ということをつくっていただくのが大事なのかなという気がしています。

白井 今日は大変充実したお話をいただいたと思います。改めて猿田さん、ありがとうございました。 (構成・湯浅好範)