研究・報告

サンダースの選挙陣営を覗いてわかったアメリカの変化~サンダース旋風は起きるのか(上)

今年(2020年)に入り、アメリカではいよいよ大統領選挙への動きが本格的になってきている。民主党では相変わらず多数の候補者が並んでいるが、ジョー・バイデン氏、バーニー・サンダース氏、エリザベス・ウォレン氏という3人が他を引き離して上位につけながら、民主党候補者選出の第1弾、中西部アイオワ州の「党員集会」(2月3日)を迎えようとしている。

現在の状況を肌で感じてみたい。その一番の方法は、候補者の陣営に飛び込んでみることである。10年以上も前の2008年、私はバラク・オバマ氏が民主党候補者に決まった後の選挙運動の際も戸別訪問に参加して、仲間もつくり、大きく盛り上がるアメリカの選挙の肌感覚を培った。

「バイデン大統領」では、戦後75年続いてきた日米関係が変化することはあまり期待できない。進歩派とされるサンダース氏やウォレン氏であれば何か変化があるかもしれない。そんな期待を持ちながらインターネットで選挙ボランティアを探すと、サンダース陣営の戸別訪問が私の滞在先のワシントンDC近郊で頻繁に行われている。早速インターネットで申し込んだ。

戸別訪問のオリエンテーションを受ける

1月の土曜日の正午、ワシントンDC近郊、メリーランド州の指定されていた駅に集まる。SNSが普及する今では、参加する前から参加者同士の質問が飛び交い「駅のどこに集まるんだ?」「遅れるかも!」というやりとりがなされていた。

現地に5分ほど遅れて着いてみると、既に約30人が円陣になって集まっている。主催側のサンダースのTシャツを着た若者たちが、皆にオリエンテーションを始めている。二人一組のチームに分けること、戸別訪問では最初に「予備選挙は誰に投票するか決まっていますか」と聞くこと、チラシを渡すこと、でもその家に誰もいないときは郵便ポストにチラシを置いていってはいけないこと、などの説明を受ける。

「自分は共和党員だと言われたら?」

「ウォレンとの違いを聞かれたら?」

そんな質問が次々出る中、どう見ても20歳そこそこ、そうでなくとも20代半ばにしか見えない主催者たちは、テキパキと質問に答えていった。

「初めての人は、何度もやっている人と組んでね」と言われ、今回の選挙では初めて戸別訪問をする私は20代後半と思われる男女の二人についていくことにした。

ふと周りを見渡すと、みんな本当に若い! 私以外はほとんど10代~20代。30代も数人はいたと思われるが、どう見ても50代以上は20代の娘とともに家族で参加していた父母の二人だけだった。

チーム分けが終わると、指示されるままにスマートフォンに戸別訪問用のアプリをダウンロードする。指示された番号をそこに打ち込むと、自分たちが回る地域の地図が現れた。その地図には家々が並んでおり、その家の民主党員の人数や、その人たちの名前が記載されている。オバマ氏のときは紙の地図を渡されたなあ、10年で時代は変わったなあ、と少し感慨にふけった。

駅から方々に分かれた各チームは、担当地域に着くと、地図にある家々をノックしてその名前の主に声をかけ、サンダース氏に投票するよう呼びかけるのである。

有権者登録

どうしてサンダース陣営にこの地域に住んでいる民主党員の名前や住所までわかるのか、と日本の常識で考えると少しぎょっとする。もっとも、アメリカの有権者登録制度や緩やかな二大政党制の文化からすると、アメリカでは一般の人がさして気にするようなことではないのかも。

日本のように住民が住民票や戸籍で管理されていないアメリカでは、選挙直前に自動的に投票用の封筒が送られてきたりはしない。投票したい人は事前に有権者登録をしなければならない。また、二大政党制の中、各選挙における各政党の候補者となるには、大統領選挙はもちろん他の選挙でも、党の中での予備選で勝ち抜かねばならない。そのため、本選のための有権者登録をする際には自分が民主党員か共和党員かも同時に登録をし、各党の予備選にも投票する権利を得るのである。すなわち、予備選で投票する権利を得るためにも、日本とは異なり、大半の人が共和党あるいは民主党のいずれかに登録することになる。

その情報が各陣営に伝えられて、このような選挙活動が可能になっている。

元気のいいサンダース陣営と対照的なバイデン陣営

私は50軒ほどを担当したが、零下も続く真冬にもかかわらずその日は久しぶりに暖かい土曜の午後だったからか、半分くらいの家が留守であった。残りの人たちは家から出てきて、話を聞いてくれたり、自分の意見を述べてくれたりした。赤ちゃんをあやしながら「ちょっと手を離せないけどチラシ置いていって。あとで読むから」という調子で、邪険にされたところは一軒もない。

既にサンダース氏に入れると決めている人たちも何人もいて、「もちろんサンダース!」「君たちの活動に感謝!」との激励もたくさんもらった。

他の候補者を支持する人はその旨を述べにくいのかもしれないが、「サンダース、いいんだけどね。でも(But)、トランプに勝てるかどうか心配」「サンダースもいいけど、私はウォレン」といった程度で、はなからサンダースを批判する声はなぜかほとんどない。

中には「どうなったって、トランプが再選するんだから何をしても仕方がないわよ」というあきらめの気持ちを蕩々と話し続ける女性もいた。

一番多かったのは「まだ決めていない」という人たちだった。これは、私のチームの結果だけではなく、終わってから皆で集まって今回の戸別訪問全体の反省会をしたときも、全体的にそういう結果であった。

なお、1月30日時点の各種世論調査では、1位バイデン、2位サンダースが多いが、中には、1位サンダース、2位バイデンという結果の世論調査もある(CNN 2020/1/16 – 1/19)。しかし、家々を回った中で支持者が一番多かったのはサンダース氏であり、バイデン支持者はほとんどいなかった。バイデン支持者が少ないということについても、反省会で皆が一致した意見だった。私のチームメイトなどは冗談めかして、「世論調査で聞かれたら、一番批判されない『バイデン』ってとりあえず答えているだけで、実はバイデンをちゃんと推している人なんていないんじゃないの?」などと息巻いていた。

世論調査には地域性もある。しかし、メリーランド州はサンダース氏やウォレン氏の出身州ではない。どちらかといえばバイデンの出身州に近いとすら言える。全国の世論調査ではバイデン氏が一番なのに、堂々と「こんな点が評価できるから、絶対バイデン!」と語る人がいないのは、同氏の陣営としては嘆かわしい事態であろう。外野から見ていても心配になるほどであった。

「他にいい人がいないし、バイデンなら中道派だからトランプに勝てるかもしれない」というのがバイデン支持の一番の理由であると聞く。それを肌で感じる結果となった。

一軒一軒の訪問が終わるごとに、アプリに、「絶対サンダース」「サンダースに傾いている」「ウォレン支持」「バイデン支持」と記録する。それを基に陣営は、今後、再度の働きかけをしていくのである。

3時間近く回った後、近くのバーで反省会を兼ねた打ち上げ。若者たちが、戸別訪問でどんなやりとりがあったかを意気揚々と語っていた。

2月3日、民主党の候補者選出の第1回「党員集会」がアイオワ州で行われる。一緒に個別訪問した私のチームメイトから、「次の土曜はアイオワに飛んでいって戸別訪問をする!」とメールが届いた。アイオワ州の結果、あるいは、その翌週のニューハンプシャー州での予備選の結果が大きくその後に影響を与えると言われている。アイオワ州内で1月16日以降に行われた世論調査6つのうち、4つでサンダース氏が1位になっている。ニューハンプシャー州では、6回行われた世論調査すべてでサンダース氏が1位になっている。20代の若者に支えられた威勢のいいサンダース陣営が右肩上がりに調子を上げているが、さて、今後どうなるか。

全体の情勢を見つつ、バイデン氏やウォレン氏の選挙陣営を覗く機会ももちながら、アメリカ社会の動向を引き続き報告していきたい。

(「サンダースの選挙陣営を覗いてわかったアメリカの変化~サンダース旋風は起きるのか[下]はこちら)

 

猿田佐世(新外交イニシアティブ(ND)代表/弁護士(日本・ニューヨーク州))

沖縄の米軍基地問題について米議会等で自らロビーイングを行う他、日本の国会議員や地方公共団体等の訪米行動を実施。2015年6月・2017年2月の沖縄訪米団、2012年・2014年の稲嶺進名護市長、2018年9月には枝野幸男立憲民主党代表率いる訪米団の訪米行動の企画・運営を担当。研究課題は日本外交。基地、原発、日米安保体制、TPP等、日米間の各外交テーマに加え、日米外交の「システム」や「意思決定過程」に特に焦点を当てる。著書に、『自発的対米従属 知られざる「ワシントン拡声器」』(角川新書)、『新しい日米外交を切り拓く 沖縄・安保・原発・TPP、多様な声をワシントンへ』(集英社)、『辺野古問題をどう解決するか-新基地をつくらせないための提言』(共著、岩波書店)、『虚像の抑止力』(共著、新外交イニシアティブ編・旬報社)など。