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六 ヶ 所 再 処 理 工 場 の 稼 働 は 必 要 か
―包括的検証と国民的討議を―
日本のプルトニウム保有量は2019年末現在、45トン余りにのぼる。これは核弾頭約6000発分に相当し、世界の、とりわけ東アジア地域の安全保障を脅かす懸念材料となっている。
日本政府は2018年7月、「プルトニウム保有量を減少させる」との方針を打ち出し、再処理は原発での利用に必要な量にとどめるとした。これは、日本が使途の定かではないプルトニウムを大量に抱えていることに対する、米国をはじめ国際社会の懸念への応答と考えられる。
日本はなぜ、これほどの量のプルトニウムを蓄積してしまったのだろうか。日本政府は原発から排出された使用済み核燃料をすべて再処理し、回収されたプルトニウムを高速増殖炉(FBR)で再利用する政策を掲げてきた。この「全量再処理」を前提とする「核燃料サイクル」政策の下、日本の電力会社は使用済み核燃料を茨城県の東海再処理工場や英仏の再処理工場に移送し、プルトニウムを取り出し続けた。しかし「FBR計画」はとん挫し、ウランにプルトニウムを混ぜて既存の原発(軽水炉)で消費する「プルサーマル」計画も難航している。その結果、日本は大量のプルトニウムを抱え込むことになったのである。
プルトニウム在庫量の着実な削減が見込めないなか、青森県に設置された六ケ所再処理工場は本年7月、原子力規制委員会の安全審査に「合格」した。これは事実上の操業許可とされる。同工場の所有者である日本原燃は、2022年度の運転開始を目指しているという。
六ケ所再処理工場は最大で年間8トンものプルトニウムを分離・抽出する能力をもつ。一方、プルトニウム量をどのように減らしていくのか、具体的かつ現実的なロードマップは示されていない。それでもなお、日本政府が再処理に固執する理由のひとつは、「使用済み核燃料の行き場がなくなる」ためだとされる。原子力発電所の再稼働が進むと、さらに行き場のない使用済み核燃料の発生が見込まれ、それが六ケ所再処理工場の稼働圧力ともなりうる。
世界では使用済核燃料を再処理せず、核廃棄物として直接処分する方式が主流となっている。プルトニウム利用を掲げていた国々も、経済性や安全性、核拡散リスクなどを勘案した結果、その多くが再処理から撤退し、直接処分へと方針転換した。今日、再処理を続けている国々は核兵器保有国、ないし事実上の保有国である。
日本では現在、使用済み核燃料の大半が各原発の原子炉建屋内で「プール貯蔵」されている。「プール貯蔵」は、福島第一原発事故で明らかになったように、潜在的な危険性を有する。世界の主流は、リスクが比較的少ない空冷の「乾式貯蔵」である。
六ケ所再処理工場は1993年の着工から既に30年近くが経過している。この間、さまざまなトラブルに見舞われ、完工時期は25回も延期されてきた。建設費は当初の約7600億円から約3兆円と4倍近くに増大し、総事業費は約40年間の操業費を含めると16兆円以上ともいわれる。これらのコストは電気料金を通じて、最終的に電力消費者が負担することになる。
このまま六ケ所再処理工場の本格的稼働へと踏み切れば、重い経済負担が国民に課せられるのみならず、新たな国際的懸念を呼ぶことにもなりかねない。以上から、私たちは日本政府に対し、現段階におけるより現実的な政策として、次の三つを提言する。
一、日本政府は、所有するプルトニウム在庫量の大幅削減に向けた具体的かつ現実的なロードマップを示し、その実効性が確証されるまで六ケ所再処理工場の運転開始は見合わせるべきである。
一、使用済み核燃料については、より経済的で危険性の少ない「乾式貯蔵」を優先するとともに、貯蔵能力の確保と最終処分方法の見通しが立たない間は、これ以上の使用済み核燃料の発生を抑えるという視点から、原子力発電所の再稼働についても見直しを検討すべきである。
一、日本政府は、「全量再処理」を前提とする現行の核燃料サイクル政策とそれ以外の選択肢について、政府とは独立した立場の第三者機関による評価を実施するとともに、国民的な討議の場を設けるべきである。
2020年11月
新外交イニシアティブ(ND) 日米原子力エネルギープロジェクト