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雑誌『世界』2013年6月号(岩波書店)

「日米関係に新しい外交を」-求められる多様な回路-

弁護士・新外交イニシアティブ(New Diplomacy Initiative)事務局長 猿田佐世

 

日米外交の既存のチャンネル

 

安倍首相が本年2月、ワシントンを訪問した。安倍首相はホワイト ハウスでオバマ大統領と会談し、在ワシントンのシンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」で講演した。オバマ氏との共同会見で米メディアからオバマ 氏に対して米国内政についての質問がなされたことに表れるように、安倍首相訪米への米国内での注目度は決して高くなかった。しかし、安倍首相の訪米は、ワ シントンで対日政策に関わる人々に対しては「Japan is back(日本は戻った)」を強くアピールするものとなっただろう。

CSIS での講演会には、対日政策を担ってきたリチャード・アー ミテージ氏(元国務副長官)、トーマス・シーファー氏(元在日大使)等が出席し、CSISの所長ジョン・ハムレ氏(元国防副長官)が司会として冒頭挨拶を 行い、CSISの日本部長マイケル・グリーン氏(元国家安全保障会議アジア上級部長)もコーディネーター役を務めた。

そして、安倍氏は、 アーミテージ氏の目前で、講演冒頭に「日本は 二級国家にはなりません」と訴え、昨夏、CSISから発表された第三次アーミテージ・ナイ報告書(後に詳述)への返答をした。また、講演途中にも、ジョ ン・ハムレ氏やマイケル・グリーン氏に「ジョン、マイク」と呼びかけ、親密さをアピールした。これまで戦後60年以上もの間、五五年体制下で築かれてきた 日米間のチャンネルが、自民党の政権復帰により再び表舞台に登場したことを示した瞬間であった。

 

米国の対日影響力

 

安倍首相をCSISの講演会場で迎えた人々の外交プロトコール(国際儀礼)上の地位は、一国の総理大臣よりかなり低い。オバマ政権内の人々は会場にはいないようであった。にもかかわらず安倍首相が進んでCSISで講演を行うには理由がある。

ワ シントンの日本に対する影響力はとても大きい。そして、その影 響力の源は、現政権担当者ばかりにあるのではない。このアーミテージ氏、グリーン氏、ハムレ氏といった人々は「知日派」と呼ばれ、常に日本のメディアに登 場し、日米関係についてはもちろんのこと日本の国内政策についても大きな影響力を及ぼす。

その代表が、昨年八月に第三弾が発表された、い わゆる「アーミ テージ・ナイ報告書(正式名称“The U.S.-Japan Alliance; Anchoring Stability in Asia(米日同盟:アジアの安定をつなぎとめる)”」である。同報告書は、第一弾が2000年、第二弾が2007年に公表されている。刊行後5年~10 年の日本の安保・防衛政策を方向づけてきたと評されることもある程の影響力を持ち、集団的自衛権行使の制約解除、PKOへの自衛隊全面参加、日米ミサイル 防衛協力の範囲拡大等を日本に求めてきた。2012年8月15日の第三弾発表と同時に日本ではマスコミ各社が取り上げ(米メディアでは、このように取り上 げられてはいない)、読売新聞は報告書の要約ともいえる文章を社説として掲載した。ただちに防衛省で翻訳が作られ、また、海上自衛隊幹部学校のウェブサイ トに解説論文が掲載された。

アーミテージ・ナイ報告書は、米政府から出されたものではない。 発表先も第一弾は米国防大学の国家戦略研究所、第二弾、第三弾は民間シンクタンクのCSISの発行である。政府発表でないにもかかわらず、なぜそこまで日 本に対して影響力をもつのか。防衛・安保・経済その他のありとあらゆる分野について、こういった米国発の発表物の影響が大きいことは、日本の多くの人々が 認識しているが、それらが強い影響力をもつのはなぜか、については、あまり知られていない。その理由を理解するには、米国の政治やシンクタンクの「ワシン トンシステム」を、特に、その中でも日米外交を巡る「ワシントンシステム」を理解する必要がある。

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